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最後の一振り

11 16, 2014 | Tag,物語,短編小説
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激闘 /


国を旅し、より高い技術を求め、遥か遠い異国の地で伝説の鍛冶職人に師事した若き日の刀匠は、
やがては幾度となく国王に剣の献上の栄誉賜るほどの腕前へと成長したが、年老いた晩年のある夜、不吉な夢に苛まれ、
弱った身体を奮い起こしては、まるで災いを祓うかのように槌を振るい続け、やがて一本の剣を鍛え上げた。

く年もの日々は流れ、剣は代々血脈とともに受け継がれ、今では老いた母と国境近くの山深い村で酒場を営む店主のもとへと移り、その最後の一振りはかつての光を閉じ込めたまま、今では店のカウンター越しの壁に大切に飾られていた。

或る夜のこと、酒場では最近度々起こる野山で放牧中の山羊が減り続けているという珍事について皆が噂している中、ふらりとこの地に訪れた謎の男が周囲から不審に思われていた。
村は往来が少なく、外の者に対しては排地的だったのに加え、物々しい甲冑と腰に剣を携えた姿のエルフという見慣れぬ来客には、より一層冷たい視線が送られていた。

店主は疑いと嘲笑を顔に浮かべ、この見慣れぬ姿の客に村を訪れた理由を尋ねると、
男はかつて刀鍛冶で栄えた故郷を焼き尽くした大きな影を追って、遥々この地に辿りついたのだと静かに答えた。
にわかに信じがたい突飛な話に、聞いていた周囲の一同は笑い転げていたが、店の片隅で老婆だけは、真剣な面持ちで事のあらましを気にかけていた。
この土地ではエルフ族に対して偏見が強く、次第に酔った客が喧嘩を吹っ掛けては騒ぎとなり、傲慢な店主は迷惑顔で男に店を出るように促した。

言のまま男が勘定を払い、店を出ようとした丁度その時、外から大きな地鳴りと共にに人々の叫び声が聞こえ、
慌てて表へ出てみると、なんと5軒ほど先の家屋が燃え、信じ難くも炎の中で首をもたげたドラゴンが咆哮していた。

村は騒然とし、突然の襲撃に面を喰らった警備を担う兵士たちは大きな炎とあまりの恐ろしさに腰を抜かし手を出せないでいた。
炎は家屋から家屋へと燃え広がり、必死に避難を呼びかける者や消火にあたる者、逃げ惑う者など大混乱の中、突如エルフの男が名乗りを上げた。
周囲はあっけにとられていたが、じきに村中全てを焼き尽くされると判断した老婆は、男の面構えと腰の短剣を見ると心もとなく思ったのか、息子の制止も聞かずに店に飾られた剣を持ち出してきた。

男は老婆から剣を受取り、意を決したように大きく息をすると、まるで風が滑るように駆けて行った。
迫る男の存在に気付き、ドラゴンは歯をむき出し威嚇する。
薙ぎ払おうとする巨木のようなドラゴンの尾をくぐり、引き裂こうとする強靭な爪や牙を紙一重にかわすその男の身のこなしは、もはや人のなせる業ではなかった。

人離れした大立ち回りの末、ついには竜の背に飛び移り、すかさず短剣を振り下ろしたが、並みの剣では辛くも堅い鱗に阻まれ深く致命傷を与えることはできなかった。
傷を受けて驚いたドラゴンは苦しみ羽をばたつかせたかと思うと、彼を背に乗せたまま一気に遥か上空まで飛び去ってしまった。

空は月がすっかり白んで、夜が明けようとしていた。
振り落とさんとするドラゴン、必死にしがみつく男。きりもみに舞いながら昇っては墜ちてと繰り返すうち、薄れゆく意識の中で男は自らの命をも覚悟していた。
その一瞬にしてわずか、強い風の勢いと激しい揺れの途切れを感じ、これを機とばかりに男はかつての刀匠が打ち鍛えた最後の一振りを掲げ、ギラリと光るその刃に渾身の力を込めて竜の背に突き立てた。
剣は恐ろしいほどまでに鋭く肉をえぐり、その切っ先が心臓にまで達すると空にはドラゴンの断末魔が響いた。

遠く村ではドラゴンの声だけが聞こえ、それを最後にエルフの男と刀匠の剣は、まるでその役目を終えたかのように二度と店主のもとへと戻ることはなかった。


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